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小説

壁をなくした心から見えるものー『チエちゃんと私 』(よしもと ばなな・著)感想ー

イタリア雑貨の買い付けをしながら一人暮らしをしていた私の家に、
七歳下の従妹チエちゃんがやって来た。
率直で嘘のないチエちゃんとの少し変わった同居生活は、
ずっと続くかに思われたが…。

家族、仕事、恋、お金、欲望。現代を生きる人々にとって
大切なテーマがちりばめられた、
人生のほんとうの輝きを知るための静謐な物語。

よしもとばななさんの作品は、
きれいであたたかくて心の芯にとても近い。

読んでいると、
忘れたふりして押さえつけていた感情が
ぶわぁぁあっと溢れ出て心のデトックスになる。

『チエちゃんと私』もわたしにとって、そんな作品でした。




感想

チエちゃん

チエちゃんは、人とたくさん話すのは得意ではないけれど、
自分のペースで生きるのがうまい。

自分にできること・やりたいことがはっきりしている。
自分の心に素直に従って生きているように感じる。

チエちゃんも私も30代〜40代で、
そんな中年の独身女性のふたりの生活。

20代の(このブログを書いている)わたしには、
想像が難しいけれど10年後もこんな風に自分が自分でいられる生活が
続いていくのはとても良いな、と思った。




私(カオル)はイタリアへ買い付けにいくことを仕事にしているので、
目的が旅行ではないイタリアでの滞在に勝手に胸がときめいた。

違う視点で、イタリアについて思いを馳せることができるし、
何よりとてもイタリアに行きたくなる。

 

読み進めていくうちに、
自由な働き方・自由なひとり暮らしを満喫していた私(カオル)が、
チエちゃんと暮らし始めたことは、
偶然であれど必然だったような気がしてくる。




(中略)、誰かを必要として、その人なしでは生きられなくなるのがこわかったから、
私はずっとひとりでいたんだなと思った。
私はまだ大人になっていなかったのでなるべく何も決めたくなかったのだろう。

 

この私(カオル)の言葉が、自分の胸にもスッと入ってきた。
ひとりでいたときも楽しかったけれど、
誰かと共に生きることはもっと楽しかった。

そのことに気づけた私(カオル)が、今の自分とも重なって、
大切にしたい人・大切にすべき感情をはっきりとさせることができた。




最後に

よしもとばななさんの文章が多くの人の胸を打つのは、
毎日に潜んでいる小さいけれど立派な悲しみさえも
きちんと悲しんで良いと言ってくれているからなのかもしれない。

自分の言葉にして受け止めてそうやって生きていく登場人物たちが、
誰もが痛みを抱えていて乗り越えて生きてきていること
教えてくれている気がします。

自分だけじゃないと思えるのは救いになる、と思います。

まだ読んでいない話がたくさんあるので、
また近々よしもとばななさん作品読もうと思います。