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小説

静かな情熱が作り上げた軌跡ー『舟を編む 』(三浦 しをん ・著)感想ー

出版社の営業部員・馬締光也は、
言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。
新しい辞書『大渡海』の完成に向け、
彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。

定年間近のベテラン編集者。
日本語研究に人生を捧げる老学者。
辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。
そして馬締がついに出会った運命の女性。
不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

この作品は、当時高校生のときに話題になった本で
本屋さんに行く度に大きなポップの前に山積みにされた書籍が
並んでいた印象があります。

高校生だった私は、単行本を買うのに躊躇して(高いので)
何度も売り場を訪れては帰る、を繰り返して結局買わず、、、笑
今日まで読んできませんでした。

5〜6年経って、ようやく読むタイミングに巡り合って
(いや、忘れてしまっていただけ汗)
あまりに壮大な辞書作りの世界に衝撃を受けました。

社会に出て、ものづくりの大変さを感じてから読んだので
逆にこのタイミングで読めてよかった作品かもしれません。

かなりリアルに描かれているようで、他に類のない作品だと思います。
読了後、紙の辞書を読んでみたくなります。




感想

真面目すぎる”まじめ”が愛おしい

主人公・馬締光也(まじめみつや)が名前の通り
真面目すぎて愛おしいです。

突っ込みたくなるくらいなんかズレてて、
でも言葉に対する追求心と情熱は誰よりも熱くて
なんだかすごく心を掴まされてしまいました。

まじめだけでなく、同僚の西岡の器用貧乏故の苦悩や
松本先生の辞書に命をかけているほどの思いの深さ、
岸辺の辞書作りに一生懸命取り組む姿勢は、
それぞれに惹きつけられる良さがあり
最終的には辞書編集部のことが丸ごと好きになってしまってました。




壮大な辞書の世界

この作品を読むまで、辞書が作られる過程を考えたことはありませんでした。
むしろ、学生の頃は紙の辞書の使用を強制されていて
重くて使うことさえ嫌ってました。

けれど、こうして辞書がどんな風に作られているのか知った今、
なんでもっと真剣に辞書のページを捲ってこなかったのだろう、と
少し後悔しました。

想像よりはるかに時間も労力もお金もかかることを知り、
ようやく辞書の魅力に気づけた気がします。

どの出版社が出しているのかなんて気にかけたことすらなかったけれど、
本屋さんに行った際は辞書のコーナーにも足を運びたいです。




最後に

思っていたより何倍も壮大な辞書作りの世界を知れて、面白かったです。

ただ、私には少し読みにくく感じてしまい読むのに時間がかかりました。
どなたかがレビューで「脚本」のようだと言っていて、
確かに少しそういう要素はあるかなぁ、と。

よしもとばななさんのような心情を丁寧に描いているような作風の小説を
よく読むのでそう思ったのかもしれません。

でも、ストーリー自体はとても面白く映画化されたのも納得でした。
この作品は、映画を観る前に読んで正解だった気がします。

これから映画の『舟を編む』を観るのが楽しみです。