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小説

ただそこには”幸せ”があったー『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ・著)感想ー

森宮優子、十七歳。継父継母が変われば名字も変わる。
だけどいつでも両親を愛し、愛されていた。

この著者にしか描けない優しい物語。
「私には父親が三人、母親が二人いる。
家族の形態は、十七年間で七回も変わった。 でも、全然不幸ではないのだ。」

身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。




捉え方がたくさんある本なのかもしれない、と思う作品だった。

ひとりの少女と”たくさん”の親たちの暖かな成長の物語。

優子に対する感情は、
育ってきた家庭の環境によって本当に様々だと思う。

 

過去の自分にも思いを巡らせながら
自分にとっての視野を広げるきっかけになる作品なのではないか。

そんなことを思った作品でした。




感想

無償の愛を受け止めるには

優子の親たちは、誰もが優子に無償の愛を注いできた。

それだけ愛を注いでもらえる優子をうらやましく思いそうになる自分がいた。

けれど、読み進めるうちに優子が成長していき、
自分の気持ちを言葉にできるようになる程に
優子自身が自分を無理に大人にさせていたことに気づいていく。

 

学校で友達と過ごし、家族とは言え、家に帰っても他人と共にいる。
今回、完全に一人になってみて、頭や心、
すべての重みが抜けていくような感覚を味わった。
ほっとするってこういうことをいうのかもしれない。

 

優子には、落ち着ける人と一緒に過ごしてほっとする。
その経験がなかっただけなのだ。




親子のかたちの在り方

森宮さんと優子の親子関係がいちばん好きだった。

東大卒で一流企業に勤める30半ばの森宮壮介。
高校生になった優子のお父さんになった、
この森宮さんが良いキャラをしている。

やれやれ。森宮さんの悪口は小学生レベルだ。
けれど、森宮さんと一緒に文句を言っていると、
気持ちだけは晴れて、いくらでもそうめんが食べられた。

 

森宮さんとは、よく夕ご飯のシーンが描かれている。

甘いものもよく一緒に食べるし、
高校生が(血はつながっていないけれど)お父さんと
夕ご飯から食後のデザートまで
仲良く会話しながら食べるなんてことがあるのだろうか。

 

わたしは、家族全員が勉強や仕事で忙しくしていて
あまり家族で食卓を囲んだ経験がなく、それも外食ばかりだったから、
毎日手料理を作る、ということは本当にすごいことのように感じる。

 

塞いでいるときも元気なときも、ごはんを作ってくれる人がいる。
それは、どんな献立よりも力を与えてくれることかもしれない。

 

優子が言ったこの言葉にじんときた。

人が作ってくれるごはんで元気になれたことがたくさんある。

 




優子は、たくさんの親たちに育てられ関係を築いてきたけれど、
後に振り返って、どんな親にも感謝し、
自分のそのときの気持ちを良い部分も悪い部分も言葉にして受け止めている。

 

愛情の示し方や種類ってみんな違うから

 

優子の心の成長や相手の善意の受け止めかたに、心が暖かくなった。




最後に

正直、わたしはあまり余裕のある家庭で育っていないので、
優子のことは少し羨ましいと思うことが多かった。

けれど、読了してしばらく経って、
優子は優子で自分を律してたくさん我慢してきたのだろうな、と感じた。

 

この環境で育ったからこうなのだろう、と決めつけることが
どんなに的外れなことかを理解できたような気がする。

お隣さんの家庭をのぞいたような気持ちになった。

あたらしい視点をくれる、作品だった。

 


文藝春秋BOOKSさんの特設サイトで、
『そして、バトンは渡された』が立ち読み可能。

気になった方は、是非◯