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小説

そこには愛が溢れていたー『さくら』(西加奈子・著)感想ー

累計50万部突破! 2020年初夏映画化。

両親、三兄弟の家族に、
見つけてきたときに尻尾に
桜の花びらをつけていたことから
「サクラ」となづけられた犬が一匹。
どこにでもいそうな家族に、
大きな出来事が起こる。
そして一家の愛犬・サクラが倒れた–。

登場人物

〈長谷川家〉
薫 主人公・次男
ミキ 薫の妹
一 薫の兄


サクラ 愛犬



はじめに

ちゃんと家族が家族である物語を、
わたしはちゃんと読んできたことがなかったかもしれない。

この作品は、長谷川家の日常が描かれている。一つの家族の物語だ。

家族で過ごす日常。
それはわたしにとって憧れであり、わたしの世界には存在しないことだった。

いや、存在はしていたけれど、わたしは家族を「家族」だと思えるほど、
一緒に何かを共有してこなかったし、決して安心できる場所ではなかった。

「母」「父」「兄」がいる。
ただ、それだけ。




たまに、全員集合しても、それは人生でみれば瞬間的な出来事で、
日常を家族と過ごせないから、もういっそ家族と思わず、
ひとりひとり孤立した存在でいたい、と思っていた。

この作品は、まだ実家にいた6年前の自分なら、ぜったいに読めなかっただろう、と思う。

ぜんぶまるごと。
愛したり哀しんだり、失ったものの大きさに空っぽになったり。
そして、また家族みんなで乗り越え、1つになったり。

たしかにそれぞれが歩んだ四半世紀の家族の物語。

家族の在り方を一度は考えたことのある人に、是非読んでほしい作品。



感想

至るところに、「愛」が溢れている。

読み手によって、「愛」の感じ方も、記憶に残る場面も
全然違ってきてしまうように感じた。

育ってきた環境は人それぞれ全く違うから、
後半で描かれる崩壊の威力が強すぎて苦しいだけの作品に思えたり、
もしくは、崩壊してしまったからこそわかる
家族の強い絆に感動する人もいるかもしれない。

私は、後者だった。




子供ができても恋人のような関係の父と母、
周りから愛される人気者の兄に、美しい容姿の妹、
そんな兄と妹に挟まれる主人公の薫は素直な性格で、
愛犬のサクラは言葉を話せるようなほど人懐っこくて。

長谷川家のみんなは、眩しいくらいに仲が良い。

 

穏やかに過ぎる日々を

「美しくて、尊い。」

と思う、父。

 

兄の存在が1番際立っているけれど、
この家族を1つにしているのは「美しくて、尊い」日常を大切にする父なのだと思った。




崩壊

兄の人生が崩れていったことで、家族も一緒に崩壊していく。

それが、あまりに悲劇的で、でもあまりに「家族」で、
私はなんだか感動してしまった。

けれど、「家族」を感じようとしてこなかった私には、
まったく未知の感情で、だから、この物語を受け止めるには
まだまだ私はいろんな感情が足りないような気がした。

また数年後、読み直したい、と強く思った。



さいごに

西加奈子の2作品目の本作『さくら』は、西加奈子を有名にした作品、らしい。

 

わたしが西加奈子作品を初めて読んだのは、『うつくしい人』だった。
他の作品よりは、あまり有名ではないだろう、と思う。

わたしは、ベストセラーだから読む、とか、
話題になってるからなんか気になる、
みたいな理由だけで読むことができなくて、
自分がいま必要としていると思える本しか読むことができない、
というか読む気にならない。

本を知るきっかけはいろいろあるけれど、最終的には、
「いまの自分がこの作品を求めているか」で判断する派。




最近の作品に読み慣れていたので、
本作「さくら」は、なんだか少し荒削りな印象がした。
でも、私にとっては今読めて良かった。

西加奈子の作品の特徴をよく表している作品だと思う。
いろんな人の感想をみて、かなり評価に差があったので
この作品を好きな人は他の西さんの作品を必ず好きになると思う。

 

私はこれからも、『さくら』を見つけたあの瞬間のように、
「あ、これだ」と思えた自分を大切にしていきたい。

そうやって、丁寧に自分の欲している物語の世界に浸っていきたい。