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小説

”かぞく”であるということー『漁港の肉子ちゃん』(西加奈子・著)感想ー

男にだまされた母・肉子ちゃんと一緒に、流れ着いた北の町。
肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働いている。
太っていて不細工で、明るい―

キクりんは、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。
ちゃんとした大人なんて一人もいない。それでもみんな生きている。

港町に生きる肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描き、
そっと勇気をくれる傑作。

はじめに

肉子ちゃんとキクりんの親子のかたちに、びっくりした。

キクりんは、まっすぐすぎる肉子ちゃんとは対照的に
どこか冷めていて、10才なのに大人びている。
というか、子供らしさが抜けてしまっている。

肉子ちゃんは、誰のことも信じてしまうが故に(?)
ろくでもない男とばかり付き合ってしまう。

キクりんは、そんな肉子ちゃんを阿保やなぁ、
とは思うけれど、決して蔑んだりはしない。

ふたりの確かに”かぞく”である関係性に、胸がじんとした。

 

普通の親子ではないかもしれないけれど、
お互いがお互いを思う気持ちがあればそれで良いんだと思わせてくれた。
相手を思う気持ちが何よりの愛だということを教えてくれた。

そんな小説だった。

 


感想

逃げていたいと思う気持ち

どちらにもうなずくのと、どちらにも首を振るのは、結局同じことのようだけど、違う。
私は否定が出来ない。決定的な意思を持っていても、それを出すことが出来ない。
受け入れたままで、どちらからも逃げていたいのだ。

クラスで対立するふたりの間に立ってしまって、
どちらからも逃げていたいと思うキクりん。

どちらも選ぶことと、どちらも選ばないこと。
それ自体がどうこうと言うよりは、「決定的な意思」を持っているのにそうしない。
うことの方に問題があるのだろう、と思う。

逃げていたい。
というキクりんの思いは、当時の苦しかったわたしとよく重なって、
臨場感をもってわたしに苦しみを運んできた。

学校という閉鎖的で、しかも田舎という色の濃い環境で、
友達との些細なことでの対立は自分の世界を大きく支配してしまう。

学校という空間は、有難い環境ではあるけれど、
ときに大人の社会よりも複雑で厳しいものだ、と思った。

 


なんでも信じてしまう肉子ちゃん

肉子ちゃんは力強い。
誰のこともまっすぐ100%信じてしまう肉子ちゃん。
それは、みんなが肉子ちゃんに思うように阿保なことかもしれない。

でもそれも強さだよな、と思う。

そして、肉子ちゃんの肉子ちゃんとしてそのまんま生きる姿は、
ときに羨ましくも思う。

ある深夜にこっそり帰ってきたつもりの肉子ちゃん。
余裕でうるさくて、キクりんは起きてしまっている。

「肉子ちゃん、おかえり。」

肉子ちゃんは、びくっと体を震わせた。そして、机に、足をぶつけた。

「いたっ!キクりん、起こしてしもた?起こしてしもた?
ごめんやでごめんやでーっ!寝て寝て寝て寝て寝て寝てっ!」

寝れるかよ。

この場面が、すごく好き。

この小説では、肉子ちゃんに対してキクりんが心の声でつっこむ場面が
幾つかあるのだけれど、どれもふふっと笑ってしまう。

こんな面白い親子おるん!!
と言う気持ちになるのである。


肉子ちゃんは、ろくでもない男に借金を背負わされたりしてしまうから、
お金もないし沢山たくさん働かなくてはいけなくてきっと人より大変な人生だ。

けれど、肉子ちゃんが肉子ちゃんのままでいて、
ずっと肉子ちゃんとして生き続けるということは、
とっても尊く清いことなんじゃないかと思う。

まっすぐな人は、やっぱりとっても素敵に見える。

それができる人は、なかなかいないと思うから。
私はそれができないから。

私も肉子ちゃんみたいに、
いつの日もどんなときも、自分であり続けられる強さがほしいな。


迷惑をかけないように生きるキクりん

なにかのきっかけで、壊れたように涙を流してしまうのは、
きっと自分の意識していないところで、我慢を繰り返しすぎているからだと思う。

キクりんは物わかりが良いから、なんでも我慢してしまう。
我慢できてしまう。

だけど、とっくにキャパオーバーなのにそのことに気づかなくて、
ふとしたとき、誰かの優しさで糸が切れたように涙が流れる。


そうさせてくれるひとの存在は、とっても大事だよな、と思うから、
キクりんの周りにそんな人がいてくれて良かった、と思う。

最後の30ページ、涙が止まらなかった。

 

我慢することが大人なわけじゃない。
子供は子供で子供らしくしていたら良い、という言葉は
優しさのかたまりからうまれた言葉だったんだな。

そういうことに、大人になってようやく気付いた。

キクりんがキクりんとして、ありのまま生きるようになれる日を願ってる。


最後に

‪迷惑をかけないように生きていた幼少期、我慢しすぎて倒れて入院して、
結局迷惑をかけていた。‬

そんな5歳の女の子を抱きしめてあげられる強さが、今の私にはあるな、と思った。‬

主人公が自分と重なりすぎた。当時の苦しみにも自分の成長にも泣ける。
この世界は、思ってるよりずっとあたたかい場所なんだ、
ってことを再認識させてくれた。そんな小説だった。

ずっと大切にしたい小説がまた増えた。
キクりんも肉子ちゃんも、私の中で生き続ける。