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小説

爽やかな風が吹いたー『さいはての彼女 』(原田マハ・著)感想ー

25歳で起業した敏腕若手女性社長の鈴木涼香。猛烈に頑張ったおかげで会社は順調に成長したものの結婚とは縁遠く、絶大な信頼を寄せていた秘書の高見沢さえも会社を去るという。失意のまま出かけた一人旅のチケットは行き先違いで、沖縄で優雅なヴァカンスと決め込んだつもりが、なぜか女満別!?だが、予想外の出逢いが、こわばった涼香の心をほぐしていく。人は何度でも立ち上がれる。再生をテーマにした、珠玉の短篇集。





また旅行に出たくなるような小説を手に取ってしまいました。

 

本当にそこにいるかのように鮮やかに情景を思い浮かべられる、
そんな文章でした。

最後には、強く爽やかな風が吹いたようで、
とても気持ちのよく心温まる物語です。

4編からなる短編集ですが、
どれも女性が主人公で仕事のために必死で走ってきた人が
大切なことに気づく、その描写が良かったです。

仕事をずっと頑張ってきた。
少し、立ち止まりたい。
そんな風に思っている人には、特に刺さると思います。




感想

全てのひとを巻き込み惹き込むナギの魅力

表題作である「さいはての彼女」で登場する凪。

このハーレー乗りの女の子・凪がとても素敵な人物で、
どこに行ってもすぐにみんなの心を掴んでしまう。

 

「みんな私の、大事な、友だちです。スズカさんもです」
小学生の作文みたいに素朴な言葉が、妙に胸に響いた。

 

出会ったばかりの涼香にも、そう心から言ってしまえる
凪の真っ白に純粋な心がたちまち人を惹きつける。

そんな凪と出会って心がほぐされ、本来の自分へ戻っていく涼香。

忙しさの中で忘れていってしまう大切なことや、
つい見失いそうになる自分の本当の幸せを
大事にしようと思わせられる作品だった。




立ち止まったときに見える景色

2つ目の短編「旅をあきらめた友と、その母への手紙」

主人公・ハグはいつも友人・ナガラと一緒に旅行にいっていたのだが、
ナガラがいけなくなり一人で旅行をすることになる。

そんな人でやってきた旅先で、歩いてきた道のりを振り返るハグの心情が、
ナガラとのメールのやり取りを介して描かれている。

 

なんだかずいぶん、自分勝手に生きてきたんだな。

誰も何も言わなかったのは、私が何も言わせなかっただけなんじゃないか。
ようやく気がついたときには、何もかもが終わっていた。

 

一人で旅先に来るとゆっくり自分の気持ちを認識できる気がする。
ハグも旅先で大切なことに気づくことができた。

私たちは失敗もたくさんするけれど、
こうやって立ち止まってまた進んでいくことができる。

 

伊豆の情景も鮮やかに思い浮かべられ、旅に出たくなった。




最後に

他に「冬空のクレーン」「風を止めないで」があるのですが、
今回は2つの短編に絞って感想を書きました。

全ての作品、とても好きでした。
大切な人をもっと大切にしたくなる、
旅に出る楽しさを思い出させてくれる作品でした。

 

原田マハさんの文章はあまり読み慣れてはいないのですが、
人のあたたかさがとてもよく伝わってくる、と思いました。

思わず、微笑んだり涙したり、物語の世界を同じ感情の波に乗って、
楽しむことができる作品だと思います。

 

原田マハさんの小説、はまってしまいました。