小説

誰にとっての18年にも、沢山のものが詰まってるー『永遠の出口』(森絵都・著)感想ー

「私は、“永遠”という響きにめっぽう弱い子供だった。」

誕生日会をめぐる小さな事件。黒魔女のように恐ろしい担任との闘い。
ぐれかかった中学時代。バイト料で買った苺のケーキ。
こてんぱんにくだけちった高校での初恋…。
どこにでもいる普通の少女、紀子。

小学三年から高校三年までの九年間を、
七十年代、八十年代のエッセンスをちりばめて描いたベストセラー。
第一回本屋大賞第四位作品。




登場人物

紀子 主人公


〈小学校3・4年〉
好恵 クラスメイト
鳥井真雪(トリ) クラスメイト
大崎春子 クラスメイト

〈小学校5年〉
深沢サヨ子 5年のときの紀子の担任
クー子 紀子の親友
西さん 寵愛グループの1人
高橋さん 学級委員長

〈小学校6年〉紀子との4人組
大崎春子
ミーヤン
クー子

〈中学校1年〉
ハセ 卓球部
山さん 文芸部
千佐堵 テニス部

〈中学校2年〉
ヒロ
瑞穂
モンちゃん
茅野勇介 恋をしかけた男の子

〈高校生〉
保田くん 彼氏

〈高校生〉バイト先
森住さん 厨房
円さん ホール担当
清水さん ホール担当
小笠原さん ホール担当
百合ちゃん ホール担当

〈高校生〉紀子と同じ就職も進学もしない組
ダンボ石黒
渡辺元道



はじめに

私は、森絵都作品に育てられたと言っても過言じゃ無いほど、
どっぷり浸かっていた子供時代を過ごしてた。(主に中学生のころ)

そんな私にとって、初めて読む本であっても
森絵都さんが書いた作品、というだけで
懐かしさを感じずにはいられなかった。

一番驚いたのは、
自分が俯瞰的にこの小説の世界観を楽しめていたことだった。

 

小学三年から高校三年までの九年間。

そうだった、私の九年間はいろんなことが詰まってた。
恋に苦しんだり、馬鹿みたいなことして騒いだり、、、
ちゃんと喜怒哀楽があって、子供らしい瞬間があったのだ。

というか、あれは、当時は知らなかったけれど、
立派に子供らしい言動だったのだ。

と、当時の自分を暖かい目で見ている自分がいた。
きっと、それが大人になるということなのだろうな。

児童文学作品で名作を多数残している森絵都さんには
中学時代、本当に、かなりお世話になったので、
大人になってからもまだまだ楽しませてくれる
森絵都ワールドの凄さに、ただただ感嘆とした。

学生時代が遠い過去になっている大人ほど、読んでもらいたい。
そんな小説。




あっという間に過ぎ去った時間

これからもまだしばらくはこのまま、
互いのろくでもなさにうんざりしたりされたりしながら、
四人で暮らしていくのだろう。

夫婦げんかで離婚危機に陥ったり、姉の恋愛であったり自分の非行も含めて
紀子は、こう思う。

家族って、確かにそういうものなのかもしれない。
そもそも誰かと一緒に暮らすということは、
何かしらのストレスがかかって当たり前なんだろう。

一緒に暮らしていく相互努力がなければ、
家族との暮らしであっても途端に厳しいものになる。

自分の実家時代を思い返し、その努力の足りてなさに辟易した。
冷え切った家庭にうんざりしていたけれど、
その冷たさに拍車をかけていたのも、また自分だったのかもしれない。

 

そして、紀子のバイト先の円さんの言った言葉に妙に納得してしまった。

(中略)結局、本物の信頼関係ってそういうふうにしか結べないのかなって。
毎日、無理してでも『おはよう』って言い続けるしかないのかなって」

信頼関係の結び方。

「毎日、無理してでも」

たしかに、関わりの頻度が信頼度を左右しているような気もする。

沢山言葉を交わしている方が、当たり前だけど距離が縮まる。
だから自然と仲良くなって、そこから信頼が生まれていく。

家族でも友達でも仕事でも、人との関わりに手抜きをするのは良くない。

毎日、無理してでも『おはよう』って言い続ける。
そうしたらもしかしたら。
明日は、その後にどんどん言葉が続いていくかもかもしれない。




人は変わり続けて大人になっていく

紀子が中学に入り、すぐやめたテニス部の女の子・千佐堵。

あぁ、こういう子、クラスに一人は絶対いる。

千佐堵はまっすぐこちらを見据えているけれど、
私にはこのとき、彼女が目の前にいる私ではなく、
その背後にいる大勢に語りかけている気がした。

千佐堵の言葉はいつもそうだ。そこに私しかいなくても、
つねに見えない大多数へ発せられている気がする。

 

相手のことを思っての言葉のはずなんだけど、
自分の正しいを押し付けているだけで、
優しさと正義を履き違えてしまっている子。

こういう子とは、本当の意味では絶対に仲良くなれないのだろう、と思うし、
そういえば私もそんなような子とは、距離を置いてきた。

紀子は、ときにグレながら、でも、普通の女の子として恋をしたり、
かなり紆余曲折しながら成長していくけれど、
大体の人がこんな感じに成長していくんだろうな、と思う。

周りからしたら平凡で特に何も起きない日常で、
でもたしかに、本人はその中でたたかったり苦しんだり、
投げやりになったりしながら生きているのだ。

そうやって、心の中をざわざわもやもやさせながら、
どうにかこうにか軌道修正を繰り返して大人になる。

何もないけどちゃんとある。
どのひとの子供時代にもたくさんのものが詰まってる。




最後に

この小説を子供時代に読んでいたら
どう感じただろうか、と思う。

あのころ、この本に出会っていたら
私の人生は何か違っていたのだろうか。

もっと親とわかり合おうと努力しただろうか。
もっと友達と何か思い出を残そうとしただろうか。

どのタイミングで読み、そのとき何を感じるのか。
その感じ方によって、ときに人生を大きく変えてしまうから
小説の力は恐ろしい

私は、今、この小説を読めてよかったな、と思う。
今までの自分を落ちついて思い出すことができて、
自分のこれからのことにゆっくり思いをはせることができたから。

一応この作品は、児童文学ではないのだけれど、
小学生から高校生までの成長が描かれているから、それに近しいものを感じた。

児童文学(この本は厳密には違うけれど)は、大人こそ読むべきものなのかもしれない。

森絵都さんの作品、再読しまくるのも、また面白そう。