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小説

小さな奇跡の連続に心がフッと軽くなるー『アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎・著)感想ー

ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。
奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、
他力本願で恋をしようとする青年、
元いじめっこへの復讐を企てるOL……。

情けないけど、愛おしい。
そんな登場人物たちが紡ぎ出す、数々のサプライズ! !

伊坂作品ならではの、伏線と驚きに満ちたエンタテイメント小説!

はじめに

連作短編集。
伊坂幸太郎作品の連載短編集が特に好き。

全員がどこかで繋がっていて、
そこでここと繋がるの?!という驚きと共に
フッと笑って心を軽くさせる魔法が随所に隠されているよなぁ、
といつも感嘆としてしまう。

 

伊坂幸太郎作品を読み慣れている人もそうでない人も、
好きになるであろう、新鮮さを持った恋愛的小説。




感想

斎藤さん

斉藤和義さんが伊坂さんに歌詞を依頼したことがきっかけで、
この小説が生まれたのだけど。
(最後に、で詳しく書いてます。)

だから、この小説では道端で斉藤和義の曲を選曲して流す、
通称「斎藤さん」なるひとが登場する。

100円を払い「今、こんな気持ちです」「こんな状況です」と伝えれば
それに沿った曲の一部を、瞬時に選曲して流してくれるのである。

不思議なことにその歌詞やメロディが、客の気分に妙にマッチしていて、
愉快な気持ちになる。

何度も、登場人物が斎藤さんに100円払うシーンが出てくる。
そして、勇気をもらったり、支えにしたり、しているのだ。

わたしだって、道端に「斎藤さん」がいたら、絶対に選曲をお願いしたいな、と思う。




思い返した時、あのときの相手がこの人で良かったと思う。

この小説には、高校生やその親世代、20代のサラリーマンなど
様々な年代の様々なジャンルの人が登場する。

その中で、一番ふざけているように感じる織田一真が言った
この言葉って、人生において重要なことだよなぁ、と。

「いいか、後になって、『あの時、あそこにいたのが彼女で本当に良かった』って
幸運に感謝できるようなのが、一番幸せなんだよ」

「もっと簡単に言えばよ、自分がどの子を好きになるかなんて、わかんねぇだろ。
だから、『自分が好きになったのが、この女の子で良かった。俺、ナイス判断だったな』
って後で思えるような出会いが最高だ、ってことだ」

 

そのときには、わからなくても後で良かった、と思えたらそれで良い。
だから、運命の人は待つのではなく、後からこの人が運命の人だったのだ、
と思えるようなものなのだ、と。

そんな風に考えたら、どの瞬間にも出会いや運命はあるような気がして、
毎日が特別なものに思えてくる。




最後に

あとがきを読んで、この作品が生まれた経緯を知った。

1つ目の短編「アイネクライネ」は、
歌手の斎藤和義に歌詞の依頼をもらい、
歌詞の代わりに小説を書いたことから生まれた。

伊坂作品に珍しく、恋愛が入ってきているのは、
伊坂さんが斉藤和義の大ファンだったから。

そして、この短編を元に
斎藤和義さんが『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』
という曲を作った。

2つ目の短編「ライトヘビー」は、
その曲の初回限定版の付録として、書き下ろしたもの。

この2つの短編から膨らんできた話を書き溜め、出来上がったのが
本作『アイネクライネナハトムジーク』

と、いうことらしい。

 

だから、恋愛の話になっているのか、と納得したのですが、
恋愛小説の方が読み慣れている私からしたら、
「伊坂幸太郎×恋愛」は新鮮で、とっても面白かった。

事実としては、暗い部分もあるのだけど、
それを感じさせなくて明るくてさらさらしているような、
小説だな、と思った。

織田一真の性格は、チルドレンの出てくる陣内みたいで、
こういう支離滅裂なことをいうけれど優しさを持ち合わせてるキャラクター、
私めっちゃ好きだ、と思った。

伊坂ワールドにこれからもどんどん浸っていきたい所存です。