小説

無感触の世界から抜け出せないー『生きてるだけで、愛。』を読んでー

あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。
25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に
割り込んできたのは、津奈木の元恋人。
その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが……。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。

本谷有希子の作品は初めて読んだけれど、
なかなかに衝撃だった。

躁鬱の女の子を主人公にした恋愛小説を読むのは初めてで、
寧子の心の声が臨場感を持って伝わってきた。

そばにいる人にわかってほしい、気にかけてほしい、
と思う気持ちは誰にだってあるものだと思う。

最後の場面での寧子の言動に、心揺さぶられずにはいられない。

新たなジャンルの恋愛小説を読みたい人に是非、読んでみてほしい。


感想

何にも繋がっていない感覚

津奈木と寧子の同棲するアパートでは、よくブレーカーが落ちる。

寧子が、部屋を暖かくするために
クーラーやこたつを過剰に使うからだ。

寧子が部屋に一人のとき、ブレーカーが落ちる。

しかし、寧子はブレーカーの場所を思い出すことができない。

こたつを切り忘れブレーカーが落ちる。
灯りの代わりにしたい携帯電話が見つからない。
そして、ブレーカーの場所もわからない。

寧子は、些細な失敗で、また闇に沈んでしまう。

地面を踏んでいるのに何にもなくて、そもそもあたしの周りには
触れることのできるようなものが一切なくて、
自分は何にもつながっていないんじゃないかと
甘っちょろい妄想で押しつぶされそうになるのだ。

その瞬間は生活していると絶妙なタイミングで現れて、
社会に出ようとするあたしの目を定期的に覚まさせていく。

寧子は、ずっとこのままでいるつもりなんかないのだ。

自分もちゃんと社会に出て生きていくぞ、と思っている。
頑張ろうとしている。

でも、いつもどうにもダメになってしまう。

 

私は、大好きな人と美味しいご飯を食べると回復する人間なので、
寧子もお弁当ばかり食べずにちゃんとご飯食べなさいよ、と
バイト先のオーナーのお母さんと同じようなことを思う。

大好きな人と美味しいご飯。

は、すごく大事だ。と思う。


受け入れてほしいと思うのに

津奈木の元恋人・安堂が寧子の元にやってきて
津奈木と別れることを執拗に迫る。

そして、寧子を社会復帰させ
津奈木から離れさせようと無理やり寧子にバイトを始めさせる。

 

そうして、寧子は
ほとんど家族経営で元ヤンキーたちで運営している
イタリア料理店・ラティーナでバイトをはじめる事になる。

そこで寧子は、オーナーたちに温かく迎え入れられる。

 

しかし、寧子は受け入れてもらえないことに対する恐怖心が強い。

あたたかく迎え入れようとしてくれている環境を、嬉しく思う。
それと同時に怖いと思う。

 

もう出来上がっている環境の中、私がここにいて良いのだろうか?
許されるのだろうか?

と、思う。

 

それは、こんな幸せは長続きしないはずだ、
こんな幸せに浸っていいわけないんだ、という自己否定。

そして、一旦手にした幸せをまた失うのではないか、という恐怖心。

なのだと、思う。

 

この人たちに否定されるようなことをしてしまったら、
この人たちに理解されなかったら、、、

あのときああ言わなければ、
こうなっていれば、、、

そうやって、タラレバばかりが頭に浮かんで離れなくなる。

完璧な人間なんていないのに、
全員から好かれる人間なんていないのに、
受け入れて欲しいという気持ちが強いから。

自分の存在を肯定し認めて欲しいのに、
怖いと思いすぎてしまう。恐怖心が買ってしまう。

 

そんな寧子の気持ちは、
新しい環境に飛び込んだときに感じたことと重なった。

あの頃の自分にだって当てはまりすぎていて、
平常心で読み進めることができなかった。


一生離れられない

(中略)ねえ、あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ?
雨降っただけで死にたくなるって、生き物としてさ、たぶんすごく間違ってるよね?」

いつも津奈木にきつくあたる寧子が弱音を吐く。

自分のことを間違ってると言う寧子の痛いほどの思いが伝わってくる。
生き物として間違ってる、なんてこと、あるはずないのに。

そう思わずにいられないほど、
自分で自分をコントロールできなくて、もがいて、
苦しんでる寧子の気持ちが伝わってきて、わたしまで苦しくて痛い。

 

 

「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生。(中略)

津奈木は言葉数が少ない。

しかし、手を伸ばしても掴めないところで痛みを感じて蹲ってる寧子を
救えないことに、少なからず傷ついてるんじゃないかとおもう。

こう言われた津奈木は何を思っていたのだろうか。

この物語は、津奈木の目線で話が進んだとしたなら
きっと全然ちがう風になっていたはずで。

津奈木目線の話も絶対におもしろいだろうな。


最後に

この小説は、菅田将暉×趣里で映画化しているのだけど
映画の方も素晴らしい。

この小説を再読したとき
2人の演技と映像が一気に駆け巡った。

小説も映画もそれぞれがそれぞれを引き立てあっているように思う。

どちらから読むのも観るのも好みかと思うけれど、
小説→映画の流れが映画を観たときの感動が大きいと思う。

個人的にセブンルールという番組が好きで
そこに出演している本谷有希子は、
朗らかで優しそうですこし毒を吐く魅力的な女性なので、
他にどんな作品を書くのか気になった。